1960年代の文化大革命で用いられた手法が復活し、大衆には大衆を、同志には同志を、信仰には信仰を当てることで、信仰を管理している。
2018年11月、中央と地方の両レベルの 中国共産党 の指導部は、中国の東海岸に位置する浙江 省 紹興 市 で会議を開いた。会議の主題は謎めいたもので、「楓橋経験に関する広範な研究55周年」と題されていた。その直後、党の公式メディアは楓橋経験を称える一連の記事を発表し、この取組みに拍車をかけた。
いわゆる楓橋経験を推進することは、文化大革命 の亡霊を呼び覚ますことになるため、過去に苦い経験をした人々の脳裏に深刻な不安がよぎった。
楓橋経験は、「集団の敵」とされた人々を監視し、改心させるために、市民グループを利用した 毛沢東 時代の手法である。この手法は、「10人が力を合わせて1人の人を改心させることで、争いがより高いレベルの当局に上げられないようにし、もって社会を内部から改革する」という原則に基づいて実行される。現代風にわかりやすく言うと、大衆には大衆を当てるやり方である。
楓橋経験は、毛沢東主席が全国で展開した4つの浄化運動(政治、経済、組織、イデオロギーの浄化)のパイロットプログラムで、元々1960年代に浙江省の楓橋地区にて、社会秩序を総体的に管理した経験から来ている。この地域は今日、楓橋 鎮 として知られている。
さらに最近では、2013年、習近平が党とあらゆるレベルの中央省庁に対して、楓橋経験の重要性をわきまえ、この「良き伝統」を継承するように命じた。この手法の現代版では、反体制派や宗教団体を抑圧し、改心させるために、この大衆操作と処罰の手法が使われている。
現在進行形の楓橋手法は大きな効果を発揮している。たとえば、中国東部の沿岸部にある山東省文登市で起こったある事件について考えてみたい。3月、キリスト教会に属する70代の3名の村人が 村 の集会所に度々呼び出され、「反省会」が開かれた。
郷 の役人がずらりと居並ぶ中、集会所の中央に立つように命じられた。村長、中華全国婦女連合会(党を支援し女性の権利を促進するために1949年に設立された団体で、中国共産党の直接的な監督を受ける)やその他の者が、代わるがわるその者たちの宗教的な信念に対して疑問を投げかけることで、「批判を通して彼らを(再)教育する」のだ。信者たちは、迷信とされる神を信仰していること、政府に反対したことで政権を覆そうと企んだこと、批判の的にさらされた。
その者たちは信仰を放棄するように命じられた。そうしなければ、その子供たちが軍隊に入隊し、大学教育を受け、公職に就くことが禁止される目に遭うだろう。当局者はまた、社会福祉手当を取り消すと脅した。この事件以来、3人の老人が村八分にされてしまった。他の村人から四六時中監視される状況に置かれ、その者たちはもはや集会を開くことができなくなった。さらに、村の他の30人以上の 家庭教会 の信者たちが、その3人の信者をめぐる処遇のために蔑視され、恥をかかされているという。
さまざまな「偽装した反省会」は、普く展開されている。党と政府機関、そして企業や公的機関が実施した計画では、上司はより階層が低い職員や従業員を監視し、同僚は相互監視を行うように指示されていた。地区事務所や自治会などの地元当局は、高齢者の「夜警団」を設置し、隣人同士でお互いを監視させるようにした。反宗教的なプロパガンダは小学校から大学まですべてのレベルの学校で広められ、教師は生徒を監視するように、生徒は教師を監視するように、生徒同士でもお互いを監視するようにさせられた。
このように、宗教をもつ者は、上司、同僚、同級生、周囲の隣人による監視(としばしば差別)の対象となった。大衆は、学校の子供たちのレベルに至るまで、意図せずに政府の抑圧の道具と化してしまっている。政府は警察に給料を支払うことなく、市民の「無料」サービスに頼って抑圧することができるため、楓橋は効果的で費用を節約できることが証明された。
人権、民主主義、そして中国における社会正義の促進に寄与する月刊誌、『北京の春』の名誉編集長である胡平(フー・ピン)氏は、楓橋は特に理由があって今の時代に甦ってきていると考える。彼は、これはリスク水準が高い時代にあって、共産党のための支配を強化する取り組みだ。中国経済は衰退してきているため、世論の批判は高まっており、社会の安定を維持するために取られてきた従来の方法はより高くつくようになってきた。このような状況において、習近平 は毛沢東時代の手法に関心を寄せたのだと考えている。
この最新版の楓橋では、社会の秩序を維持し、宗教を弾圧するために宗教自体がお互いに反目し合うように仕向けられている。例えば、中国共産党は、政府主導の 三自教会 に対して、家庭教会と、中国共産党が目の敵にする新宗教運動と闘争させることを求めた。
たとえば、5月14日、中国南東部の沿岸地域にある福建省では、省と市の宗教局が5日間にわたる会議を開催した。会議では、役人たちは36人の現地の三自教会の指導者たちに対して、家庭教会や宗教運動、特に 全能神教会(CAG)を締め付けるために政府と協力するように圧力をかけた。CAGの急拡大に鑑み、それを抑圧するために政府は宗教団体と協力することが必要である、と会議では述べられた。
グループがこれらの問題について話し合うために参集した午後のセッションでは、参加者全員がCAGに関する自分の所見を述べるように強いられ、各人の発言は記録された。そして当局は教会指導者に対して、CAGの信者として知られている者を報告し、追跡する方法を指示した。指導者はまた、故意にCAGの信者を報告しなかった人は誰でも、CAGの信者と同罪に処罰されると脅された。
ある試みを行うため、福建省古田県で実施された政策がある。それは特に家庭教会を取り締まるために設立された20名から成る「狼撲滅チーム」と同様の取り組みで、CAGを弾圧する広範囲なキャンペーンの狼煙であった。
1960年代の文化大革命モデルの取組みを現代風にアレンジし、市民を情報提供者団に変えている、この毛沢東主義の取り組みにおいては、家族の絆さえも利用されている。
文化大革命中の「大衆には大衆を」プロジェクトは、子供たちが親のことを通報し、妻が夫を裏切り、家族同士で裏切り合うことで、クライマックスを迎えた。多くの人は、文化大革命のこの最終段階を、まさに道徳秩序の破壊であると見た。
Bitter Winterが入手し、以前報告した中国共産党の内部文書では、家族がお互いに背を向ける新たな取り組みの概要が示されている。この文書は「特殊作戦の代表事例集」 と題され、「家族が家族内で宗教をもつ者を説得して」宗教から一歩身を置き、宗教的な集会に参加しないようにするため、「郷級と村級の役人はイデオロギーの研究を行って家族に確固たる決意を持たせる」ように命じられている。この文書はさらに、「宣教師のイデオロギーを改革することに注力すべきで、その宣教師の親戚が、その者にイデオロギー的な働きかけを行う第一人者となる」ことを要求している。
信教の自由 の信奉者は、警察が逮捕しても、一時的で限定的な効果しかないと述べる。けれども家族からの強い圧力は永く続き、キリスト教徒の生活のあらゆる面に浸透する可能性がある。受けた圧力、しかも家族から受けた圧力が生み出す物語は、悲痛である。
南京で起きた出来事はその一例である。4月から5月の間、市当局は、CAGに対して市内全域に及ぶプロパガンダキャンペーンを展開した。その最中、CAGの信者を通報した者に500~5,000元(約8,000~80,000円)の報酬が支払われた。繰り返すが、家族にCAGの信者がいた場合、その者を通報しなかった家族は責任を被ることになる。
CAGの信者である李秀蘭(リ・シュウラン)(仮名)さんによると、彼女の夫が政府の通知を見たとき、夫は直ちに妻に教会から脱会することを強制した。「通知には疑いの余地がない」と彼は言った。「1人の家族が神を信じるならば、家族全員が有罪になります。そして、彼たちの子供たちは大学に行ったり、軍に参加したり、仕事を見つけたりすることができなくなってしまいます。それだけでなく、もし彼らが捕まったら、3年間刑務所に入れられてしまうでしょう」(中国の 刑法第300条 に従い、邪教(異端の教え)組織で活動した場合に処される最低懲役期間について言及している)。
李秀蘭さんの夫は、年端もいかない頃に文化大革命で迫害を受け、彼の兄弟姉妹全員が影響を受けた。夫は今でも、その恐怖を心に抱いている。夫は、「共産党は意のままに振る舞う。神への信仰がどれほど有益であるとしても、その信仰を保つことはできない」と考える。
別のCAGの信者によると、政府のプロパガンダの影響を受けて、親戚から脱会するように圧力をかけられている信者もいるという。高齢のキリスト教徒の中には、宗教をもつ家族を養うことに伴う処罰を恐れた親戚からの支援がストップした者もいる。
文化大革命は、50年前に恐怖と悲劇の爪痕を残した。兄弟同士、信者同氏をお互いに監視させる新しい文化大革命は、21世紀の中国において信教の自由と思想・良心の自由を損なう危険性を孕んでいる。
江涛による報告
最終更新:2018年12月29日