反体制派や特定の宗教の信者に対する中国共産党政権の最も恐ろしい犯罪が、ロンドンにおいて証人の証言で白日の下に晒された。最終的な判決は5月頃に下される予定である。
ルース・イングラム(Ruth Ingram)
中国における臓器収奪に関する調査により明らかになった証拠から、判事団は中国に対して圧倒的に不利な暫定判決を下す方向に傾いている。中国における強制的な臓器収奪に関して、開かれたロンドンの民衆法廷では、暫定的な調査結果を早期に公表するという異例の措置を取った。「合理的な疑いを超えて、中国では良心の囚人から臓器を強制的に収奪する慣行がかなり長期間行われており、非常に多くの犠牲者が出ていると全会一致で」判断されたためである。
(民衆法廷とは、ある行為が国際法に違反していると考える民間人により行われる模擬裁判で、法的拘束力はない)
議長を務めた、勅撰弁護士でもあるジェフリー・ニース卿(Sir Geoffrey Nice, QC)は、最終判決前に暫定的な調査結果を早期に公表するという異例な措置を取り、「嫌疑に対する社会の捉え方(空気)が厳しいことから、暫定的に判決を下すことで、殺されていたかもしれない、存命の人に本当の意味での空気を与え、生き長らえてもらいたい」と、早期公表の趣旨を表明した。ニース卿は、こうすることで、「可能であれば罪のない人たちを危害から守る」公的義務を果たすと表明し、次のように付け加えた。「世界の同胞である市民に対して負っている責務を顧みることで、国が国内の特定の共同体の一部を壊そうとした過去の残虐行為を思いだし、声なき人が詳らかにしたおぞましい事件の教訓を思い起こすことができる」。
オランダのハーグの国際司法裁判所で行われた、元セルビア大統領のスロボダン・ミロシェヴィッチ(Slobodan Milosevic、1941–2006)に対する裁判で検察官を務めたニース卿は、「中国での臓器移植濫用停止(ETAC)国際ネットワーク」から、12月8~10日の間に開催された、「中国の良心の囚人からの強制的な臓器収奪に関する独立法廷」の担当を委任された。ニース卿 は、法廷は春に最終判決を下す予定だが、それまでに中華人民共和国側に、意見陳述を促すと述べた。
ニース卿は、その声明の終わりに、調査結果に異議を唱えたい人は、進み出て、その慣行を遵守するように、と続けた。ニース卿は、最終判決が下される前に、「説得力ある」証人の証言を支持するか、反論のためのさらなる証拠を提出するように呼びかけた。世界中から罪を糾弾する確固たる証言が出てきているにもかかわらず、本件に関して中国側は沈黙し、耳に入っていないかのようだ。
聴聞会への出席を求める、中国の代表者へ送付した招待状への反応はこれまでのところないが、ニース卿は、その声明の結びの部分で、暫定判決と相容れない情報や、中国で行われている臓器移植が実際には犯罪ではないことを示す情報を提供するように呼びかけた。最終判決を下す前に、中国での臓器移植に好意的で、裁判所の審理を支持する証言を断った医師からも話を伺いたいと述べた。ニース卿は、この医師たちに、証拠の提出をしぶる姿勢を再考し、問題に関する自らの立場を話すように促した。
3日間の審理で法廷へ提出された証拠は、亡命した法輪功の実践者を中心に集められたものである(江沢民元国家主席が法輪功の影響を排除する意図を明確にして以来、何千何万という 法輪功 の実践者の臓器が収奪されたと推定されている。カナダの 人権 派弁護士のデービッド・マタス(David Matas)、カナダの元国会議員のデービッド・キルガー(David Kilgour)、米国の犯罪捜査ジャーナリストのイーサン・ガットマン(Ethan Gutmann)といった研究者らは、65,000人もの法輪功の良心の囚人が殺害されたと推定している。参照:Ethan Gutmann, The Slaughter: Mass Killings, Organ Harvesting and China’s Secret Solution to Its Dissident Problem(仮訳:『大屠殺:中国における大量殺人、臓器収奪、反体制派に対する秘密の対処法』), New York: Prometheus Books, 2014.)
近年、メディアで不安定な立場が報道されている ウイグル族 もまた、危惧を訴えた。100~300万人の ウイグル族 がいわゆる 「教育による改心」のための強制収容所 で、裁判を経ずに刑期に服しているという反論の余地のない証拠だけでなく、新疆ウイグル自治区 のウイグル族全員の生体認証データが集められたという事実は、憂慮すべきことである。(2018年8月10日のロイター通信の報道:国連人種差別撤廃委員会委員のゲイ・マクドゥーガル(Gay McDougall)は、新疆ウイグル自治区西部の「教化のための政治的強制収容所」に200万人のウイグル族とイスラム教の少数民族が収容されているとの推定を引用した)。
新疆 の首府ウルムチの死刑執行の場で、生きた囚人からの臓器摘出を求められたことのある、新疆出身のウイグル族の元外科医、エンバー・トハティ(Enver Tohti)は、証言台に立ち、危惧を口にし、この危惧と、2016年6月に地域の全住民に無料の健康診断を提供すると 中国共産党 が発表したことを重ね合わされた。健康診断では新疆の全ウイグル族から生体認証データを集めており、これが臓器売買のための全国的なデータベースの構築を目的としていたのではないかという危惧が持ち上がった。「中国のメディアによると、収集されたサンプルの数は1700万を超えていた」と彼は報告した。(2017年12月13日のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書。この報告書は、新疆日刊新聞の2017年11月2日付の報道を引用しており、その報道によると、2016年9月より12歳から65歳の新疆の市民から生体認証データを収集するために、自治区 は「全住民を対象とした健康診断」を実施したという)。
トハティは、収容所は臓器収奪の取引の隠れみのではないか、といぶかしんでいる。これまでに多くの人が忽然と姿を消し、病気で負担がかかりそうな者だけが釈放されているからだ。2017年10月に訪れた台北で、兄が天津市に腎臓移植のため臓器移植ツアーに出かけたという台湾人から、次のような話を聞いたという。「兄は法輪功の状況を知っていたので、担当外科医に法輪功の実践者の臓器は移植しないように頼みました。担当外科医は兄に、今はすべての臓器は新疆から来ているから大丈夫だ、と安心させました」。
法廷で証言した証人のうち、一人を除いた全員が、逮捕後、深刻な精神的および肉体的な拷問を受けたと法廷で訴えた。性的虐待や、暴行するよう命令を受けた他の囚人から強姦されたケースさえあった。そして、血液検査や内臓の超音波検査を含む、徹底した健康診断を受けたが、漢民族の囚人は、こういった検査を受けていなかった、と声をそろえて証言した。
法廷で証言したイスラエルの外科医は、中国では2週間前に予約すれば、臓器の移植を受けられるとする報告から、違法な臓器収奪の疑いを強く持ったという。心臓移植を緊急に必要としていた患者に、仲介人として請け合うことを申し出てきた保険会社から話を持ちかけられたそうだ。心臓を見つけることはおそらく可能で、費用は保険会社が負担し、移植までの予約期間は2週間であると伝えられた。
30人の証人陳述に続き、ニース卿は、強制的な臓器収奪が中国で過去に行われたか、そして現在も継続しているのかにつき最終的な判決を下すとともに、民衆法廷は、中国の国家、国の支援を受けた機関や組織、個人が国際的な犯罪を行ったかどうかについても判断する責務を負っていると述べて結審した。ニース卿は、「国際的な犯罪が行われた可能性が示唆されているにもかかわらず、現在のところ、中国の臓器移植の慣行に関する証言はいずれも、この主張を具体的に裏付けてはいない」と述べた。
この民衆法廷のような法廷は、その判決の執行を確認する責任は負わないことは認めつつも、ニース卿は、長年にわたり中国が良心の囚人から強制的に臓器を収奪しているとの申し立てが、ほとんど何も実を結んでこなかったと悔恨を口にした。ニース卿は、通常の状況下では、民衆法廷のような法廷では、「部分的または暫定的な判決を下すのではなく、すべての関連する事実上と法律上の決定を行ってから、最終判決を下すのが普通である」と述べた。しかし本件については、「部分的または暫定的な判決を下すことが、当面の公益に資する可能性があるときは、それとは異なる事項も考慮に入れて判断する必要がある」と述べた。
最後に、ニース卿は次のように述べて、慙愧に堪えない思いを表明した。「犯罪の有無に触れないにしても、世界人権宣言が採択されてから、70周年を迎える節目の本年の「世界人権デー」に、強制的に臓器を収奪する中国の慣行に関する証拠からは、最低限、世界人権宣言にある
第3条(生存権)の第6条(法の下において人として認められる権利)、第7条(法の下の平等)、第9条(恣意的な逮捕の禁止)、第10条(権利の決定につき公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることに関する完全に平等の権利)、第11条(無罪の推定)に違反していることが明らかだと自信を持って言える」。
ニース卿はまた、証言を求められた証人の話から、世界人権宣言の第5条(拷問)に違反していることも示された、と付け加えた。1人を除く全員が、逮捕後の拷問と受けた身体検査について証言した。これは、臓器収奪の準備をしているとする主張と一貫性がある。
民衆法廷を結審する前に念を押して、「自国の領土内で、「他」国が自国の市民に行うことが認められていないことを自ら行い、成文化された基本的人権で保護された人倫を一顧だにしない姿勢は、国家として危険な姿勢である。この潮流には正面から向かわなければならず、臓器収奪に関して当民衆法廷がそうしているように、明確かつ確固たる決心をもって対峙することで、真の利益が得られる」と述べた。
ニース卿は改めて、民間人、医師、学者、政府高官が進んで証言することを望むと繰り返した。証言は、「この最後の3日間で提出された証拠と同じ証拠能力を有する」と考えられている。「中国に関する民衆法廷のウェブサイト上の「証拠の募集」ページはまだ公開されていますので、市民の皆さんは引き続き証拠を提出できますし、民衆法廷は考慮に入れたい証人や証拠書類を指定します」と訴えた。