政府は「耕作に適した土地に戻す」ことを理由に、強制的に住居や農場を取り壊しており、生活を破壊された住民は貧困に窮している。
地方経済の発展を目指した政府の政策に従い、中国全域で、果物や野菜を栽培するビニールハウス、そして、家畜飼育のための施設に農家は資金を投じてきた。しかし、2019年に入ると当局は農家が法律に基づいて建設した苗床、ビニールハウス、そして、家畜飼育施設を「耕作に適した土地に戻す」ことを理由に取り壊し始めた。この方針を一律に押しつけられた多くの農家は莫大な金銭的損失を被り、破産する者さえいた。一部の農家がBitter Winterに苦境を訴えた。
多数の苗床が強制的に取り壊される
1月19日、中国北東部、黒竜江 省 大慶 市 の薩爾図 区 にある春雷農場で、60人を超える警察官、そして、雇われ労働者によりビニールハウスが取り壊された。強制的な取り壊しを阻止しようとした一部の農業事業者は、警察官から暴行を受けた。その直後、ショベルカーが、多額の費用を投じて建設した苗施設とビニールハウスを完全に破壊した。
動画1: 大慶市薩爾図区にある農場で警察官が農家を殴打する様子。
取り壊しは1週間に渡って行われた。合計で農場が所有する約100軒の苗床とビニールハウスが取り壊された。現地の農家は、破壊が行われる2週間前に国土資源局の支部から苗床とビニールハウスが違法に農地を占領しており、1月13日までに種まきを行える状態に戻すよう命じられ、指示に従わなかった場合は法的な責任を問うと告げられていたと振り返った。
この通知を受けた農家は困惑した。現地の農家はBitter Winterに対し、「もともと、この場所は農地ではありませんでした。ビニールハウスを作る前は、雑草だらけの土地でした。まるで沼地のようでした。そこで農家はビニールハウスで農作物を栽培するための土と肥料を自ら購入しました。当初、政府は投資を促し、農家に苗床とビニールハウスの建設を奨励していました。私たちが結んだ契約書には、30年間有効であることが明記されています。操業を開始してから、まだ13年しか経過していません。政府は何を根拠に私たちの操業が違法だと言っているのでしょうか?」と説明した。
農家の疑問に対し、政府の職員は、「現在、中国と米国が貿易戦争を行っており、充分な量の穀物を輸入することができない」ため、国が通常の農地を占拠する全てのビニールハウスを取り壊すことを求めていると答えた。
突然の方針の転換により農家は大きな損失を被った。一部の農家は自分たちの権利と利益を守るために立ち上がったものの、この問題を引き受ける弁護士はいなかった。そのため、北京に向かい、嘆願を行わざるを得なくなった。農家は北京で3度嘆願を行った。しかし、何も説明を受けることができなかっただけでなく、北京での嘆願を計画した農家が拘留された。この農家は「今後は嘆願を取りやめる」ことを約束させられた後、釈放された。
この問題が発生しているのは黒竜江省だけではない。内モンゴル 自治区 の省都のフフホト市賽罕区、そして、中国北東部、遼寧省の沈陽市の于洪区では、1月から3月にかけて約3,000ヶ所の苗床が程度の差はあれ取り壊された。苗床を所有する農家は莫大な金銭的損失を被った。
動画2: 沈陽市于洪区の農家の苗床が強制的に取り壊された。
「死活問題であっても取り壊さなければならない」
一方、中国中央部、河南省登封市では、「農地を占領している」ことを理由に養豚場が強制的に取り壊された。現地の農家によると、3月27日、登封市徐荘鎮の党書記が60-70人の警察官を伴って現れ、3台の大型のショベルカーで養豚場を破壊したという。この養豚場の経営者は、取り壊しの根拠である書類を提示するよう要求したが、当局は拒否した。
動画3: 徐荘鎮で養豚場が取り壊された。
徐荘鎮の党書記は農家を無視し、農場を取り壊すよう命じた。党書記は現場にいた警察官に向かい、「抗議を続ける場合は逮捕せよ」と指示した。6人前後の警察官が養豚場の所有者を抱え上げ、車に押し込んだ後、現地の警察署に連行した。その後、合計300万人民元(約4,500万円)を費やした建物、装置、そして、資材が一瞬のうちに破壊された。
現地の住民によると、この養豚場は郷で最大級の施設であり、敷地面積は0.7エーカー(約2,800平方メートル)を超えていたという。養豚場を建設した当時、この農家は政府の支援を得ていただけでなく、飼育に関わる全ての事務処理も済ませていた。
被害者の代わりに声を上げた住民は「以前、政府は農業と家畜の飼育に携わるよう住民を促していました。しかし、現在、政府は農家の苦境を無視し、深く考えずに取り壊しを実行しています」と述べた。さらにこの住民は「こんな理不尽な政策があっていいのでしょうか?この農家は今でも160万人民元(約2,400万円)を借りている状態です。どのように生きていけばいいのでしょうか?」と続けた。
徐荘鎮の養豚場の取り壊しが行われる1週間前、登封市告成鎮でも別の養豚場が破壊されていた。尚、取り壊し作業中に農場で飼育していた6匹のブタが建物の下敷きになり、犠牲になった。
動画4: 告成鎮の養豚場が取り壊された。
取り壊しを監督するために養豚場を訪れた政府の職員に対し、この養豚場を所有する農家は「これから、どのように生きていけばいいのでしょうか?私は50万人民元(約750万円)以上を費やし、今でも3万人民元(約45万円)以上を銀行から借り入れています」と訴えた。政府の職員は、この農家が生きるか、死ぬかは関係ないと返答し、「死活問題であっても、取り壊しは避けられない」と無遠慮に突き放した。
集計中の統計データによると、登封市では少なくとも40の家畜飼育施設が強制的に取り壊されたようだ。政府の横暴な行為により住民の不満は高まっている。3月24日、この新しい政策の被害を被った登封市宣化鎮在住の農家の一人はインターネット上で「住民の利益は何よりも重要であるという主張は名ばかりの存在であってはなりません。住民の訴えを理解して欲しいです。鎮政府の現在の行動は住民の利益を軽視し、取るに足らないものと見なすものです」と投稿した。
李常山による報告