中国問題に関する連邦議会・行政府委員会が世界銀行に対して、問題を提起し、懸念を伝える書簡を送った。フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌は以前にも同様の問題提起があったと指摘している。
マルコ・レスピンティ(Marco Respinti)
海外の支援は難しいと言われることがよくある。苦しみを緩和し、大勢の人々のニーズを満たすこともあるが、暴君の巨大な道具にもなり得る。一党独裁政権においては、この運命から逃れることは不可能だ。つい先日も、権威あるフォーリン・ポリシー誌が、海外からの資金の中国での不愉快な着服の事例を明らかにしていた。新疆ウイグル自治区 の学校の教育に使われるはずの世界銀行の資金が、住民を管理し、弾圧するために 中国共産党 が用いる監視機器に使われていたようだ。具体的には同誌が指摘しているように、少なくとも3万米ドル(約318万円)が有刺鉄線、催眠ガス、そして、防護服を購入するために使われたという。
フォーリン・ポリシーでベサニー・アレン=エブラヒミアン(Bethany Allen=Ebrahimian)氏は「中国の 人権 問題を監視する米政府機関の連邦議会・行政府委員会[CECC]は世界銀行のデイヴィッド・マルパス(David Malpass)総裁に対し、「中国北西部、新疆ウイグル自治区の教育部に与えられる、「新疆の技術と職業教育及び研修プロジェクト」向けの同行の5,000万米ドル(約53億円)の融資プログラムに関する懸念を表明する書簡を発行した。この地域には、約1,000万人の少数民族の ウイグル族 が暮らしており、その大半はムスリムが占めている。そして、そのうちの100万以上が、中国政府が職業技能を教えると主張する収容所に強制的に勾留されている」と指摘している。中国の共産主義政権が「職業技能」や新疆(ウイグル族は東トルキスタンと呼ぶことを好む)の「学校」について話す際は、数百万人の住民が違法に悲惨な環境で拘束されている強制収容所を意味することは周知の事実だ。しかし、CECCの調査結果により、衝撃的な中国政府の大胆さ、そして、世界銀行の騙されやすさが明らかになった。世界銀行は新疆で中国が実施している行為を無視する世界で唯一の機関のようだ。
アレン=エブラヒミアン氏はさらに「7月、世界銀行の職員が長文のメールを同行の理事に送り、新疆のプログラムに関する懸念を詳しく説明した」と報じている。また、この匿名の情報筋(世界銀行の職員は記者の取材に応じることを認められていない)は「世界銀行の規則が守られていることを確認するため」の内部調査の実施について示唆していた。言うまでもなく、世界銀行はこの警告を無視し、資金の適切な利用に関する全ての手段が講じられていると保証しただけであった。
しかし、7月のメール以外にも警告は行われていた。フォーリン・ポリシーは次のように指摘している。「2018年11月の日付の入札書類によると、世界銀行のプログラムの一環として運営されている学校のヤルカンド技能学校(Yarkand Technical School)が、催涙ガス発射機30台、対暴動の警棒100本、カモフラージュの衣服400セット、「防刃チョッキ」100セット、「防刃手袋」60セット、ヘルメット45個、金属探知機12台、警棒10本、そして、有刺鉄線の購入に3万米ドル(約318万円)を費やしていたようだ。この入札書類の存在は、独自で研究を行うショーン・チャン(Shawn Zhang)氏によって初めて明らかにされた。この資金が世界銀行の融資から直接投じられたのか、または別の資金源から投じられたのかは不明だが、収容所と正規の学校の憂慮すべき接点を示している」と言える。
ベサニー・アレン=エブラヒミアン氏は、「新疆の地域の政府がトラック一杯の警棒、唐辛子スプレー、牛追い棒、そして、手錠を通称研修センター向けに購入していたことを明らかにした」2018年のAFPの調査を振り返っている。そして、この調査は「職業訓練所が実際には強制収容所であることを国外に証明する上で貢献した調査の一つ」であった。この融資は、新疆の4万8,500人の若者を支援することになっていたプロジェクトのために2015年5月に世界銀行が承認していた。このプロジェクトは「質の高い教育及び経営チームを構築し、学校の施設と機器を向上させ、さらに「地方の農家や都会の移民の労働者に短期の研修プログラムを提供し、地域社会及び企業に技術サービスを供給する」」という前触れであった。また、世界銀行は「中国の複数の別の省及び世界中の別の国々でも同様のプログラムを運営している」という。
「中国政府が世界銀行の融資プログラムに対して、収容所を説明するために用いる言葉は非常に似ており、時として全く同じである」。さらにアレン=エブラヒミアン氏は重要な事実をつけ加えている。「8月16日、中国の国務院は白書『新疆での職業教育及び訓練』を公開した。国務院は現地での政府の行動を弁護し、施設は「流血及びテロ行為と宗教過激派の広がり阻止するために必要だと指摘した」。Bitter Winterでは、この白書が新たな嘘で固められていることを既に伝えている。
CECCの議長を務めるマルコ・ルビオ(Marco Rubio)上院議員(共和党)とジム・マガバーン(Jim McGovern)下院議員(民主党)は書簡の中で、世界銀行の融資は強制収容所が用いられる前に行われたものの、「我々は世界銀行が、大規模な収容が行われていることが明らかになった後も、首都の建築プロジェクトを含む融資を引き続き行っている点、そして、中国政府が政策を弁護するためにプロパガンダを広めている点に憂慮している」と述べている。世界銀行からの回答はまだ得られていない。
国際復興開発銀行(後の世界銀行)は国際通貨基金と共に1944年に世界第二次世界大戦の惨事を受けて、教育、農業及び産業の分野で発展途上国に長期の融資を提供するために設立された。米国、カナダ、西欧諸国、オーストラリア、日本の間の商業及び金融関係の規則を定めたブレトン・ウッズ協定から生まれた機関である。資金は加盟国、翻って、その国民から提供される。つまり、これは、世界の一部の国々の市民から徴収された資金が、同じ世界の別の一部の住民の弾圧に使われていることを意味するのだろうか?