文化大革命を彷彿とさせるやり方で、中国は「秩序維持」と宗教の抑圧のために市民をスパイや自警団として動員している。
党に忠実で、党の内偵や目付け役として働く民間人の一団が、今日の中国のいたるところで跳梁跋扈している。彼らは目に付きやすい赤い腕章を身につけているため、容易に識別できる。いわゆる「紅袖章(赤い腕章)」団は、巡回や査察のために動員された民間人や党員で、中国共産党 がコミュニティ、特に反体制派や宗教の信者を監視するための道具となっている。
熱心な市民が同胞の市民に道徳や規範を守るように強いることは、楓橋経験や義和団の乱といったかつての中国に起こった、多くの社会運動を思い起こさせる。
中国当局は最近、楓橋経験を現代に蘇らせた。これは、秩序維持の大義名分の下に、再教育と反省と説教を通して、「集団の敵」とされた人々を監視し、改心させるために民間人を活用する、毛沢東時代の手法である。
歴史を紐解くと、もう一つの先例が見つかる。19世紀から20世紀に移る頃に起きた、義和団の乱である。義和団(字義通りの意味は「義と和の拳」)は、植民地主義とキリスト教に対する反乱を導いた中国の秘密結社であった。政治評論家の文昭(ウェン・ジャオ)氏は、二つの事件の間に共通点があるという。「義和団の乱と楓橋経験は、どちらも真実と栄光の名の下に、法外な行為を行うため、権力者が操作する集団暴力の形を取る点という共通点があります」。
では、この復活した大衆運動において中国共産党の「敵」たる標的にされるのは誰であろうか。Bitter Winterが見たコミュニティに関する政府計画の写しには、移転済み、または移転予定の世帯、宗教家、新疆 やチベット関連のグループ、請願者など、標的とするグループがいくつかリスト化されている。文書では、これらのグループを継続的に監視し、「焦点化する村や人物への調査の強化」が求められている。
地元の赤い腕章を身につけたメンバーの1人は、当誌の記者に対して、刑事事件に問えるような行動以外でも通報するように指示されたと語った。赤い腕章団の一員として、彼は住民から、家族の宗教や信仰、自宅への訪問者とその滞在時間などを詳しく聞き出すことになっている。彼は詳細に聞きだすために、事の大小を問わず、何事でも詮索するように指示を受けた。彼らにとっては、短期の訪問者や宗教の集会所は調査の格好の場である。
目付け役として動員された民間人は、いたるところで見かける。昨年、広東省の掲陽市の空港経済区に3,000人を超える「赤い腕章」要員から成るチームが結成された。
彼らはどの省のどのコミュニティでも見つけることができる。2017年12月、中国南西部四川省の省都、成都の温江区にある530を超える美団という宅配便業者が赤い腕章の着用を開始した(美団は当地の食事の注文宅配サービスである)。彼らは「温江警網紅」というアプリを携帯電話にインストールし、省の監視装置に直接接続することもしている。配達中、配達員は政府の諜報官かつ情報屋として行動する。「有害な兆候」を発見したらすぐに写真を撮り、アプリにアップロードして警察に通報するのだ。
温江政府は、部門横断的に赤い腕章の着用を拡げている。当局は、地域の警察官や区画管理者に対して、ショッピングモール、店舗、駐車場、その他の公共の場における警備員や清掃員を募集するように要請した。集められた者たちは警備「活動員」として組織され、赤い腕章の大衆抑止・統治システムに組み込まれた。
特に教会や宗教の集会所では、赤い腕章の圧力をひしひしと感じる。たとえば、5月には、中国中央部の河南省の淮陽県の宗教局の役人が、政府公認の三自教会に査察のために訪れた。役人は赤い腕章を身に着けている人員数名に対して、教会を見張るように命じた。そして説教者の説教の内容を注意深く聞き取り、政府が定めるタブーに触れていないかをチェックするように伝えられた。また、信者は宗教活動のために特別な法衣を着用することを禁じられ、教会の音楽隊の演奏を認めないとする規制の遵守を厳命された。赤い腕章団は、教会の活動をリアルタイムで写真撮影し、アップロードするように指示された。信者たちの話によると、赤い腕章団のメンバーは頻繁に 三自教会 にやってきて、監視と検査を行うようになったという。
新疆の三自教会の信者も、同様の状況に置かれていると報告した。彼女によると、高解像度の監視カメラが教会に設置され、赤い腕章を着用した人が定期的に見回りに来ているのを見かけると言う。
赤い腕章団は、警察の情報屋としても動いている。9月、江蘇省の常州市 公安局 の警察が 全能神教会 のある信者の家に押し入った。ある警官が信者のスナップ写真を見せ、長い間彼女を監視していたと述べた。後日、彼女は逮捕される前に、家の近くで赤い腕章を着用した男が、長い間徘徊しているのを見かけたことを思い出した。
赤い腕章団が宗教に対して嫌がらせをしているもう1つの事例は、教会の建物から遠く離れたところで起こったある出来事である。4月28日、河南省鄭州市の盤石教会の私立学校では、春の遠足が行われた。学校の教師は子供たちを公園に連れて行き、賛美歌を歌った。予想外に、居住区を担当する赤い腕章団が彼らを見つけ、教頭に話があると伝え、そこからすぐに立ち去るように命じた。立ち去りを拒否していたら、赤い腕章は警察を呼んでいたであろう。
ある家庭教会の信者は記者たちに、「集会を開くたびに、赤い腕章団の監視をかいくぐらなければなりません」と無力に語った。赤い腕章団があちこちにいるため、賛美歌を歌ったり、話し合ったりするときは、あえて小声で歌ったり話したりするようにしている、という。赤い腕章団は公共の秩序を維持するために存在すると言われているが、政府のいわゆる「秩序維持」のターゲットは、犯罪者に限定されないことは周知の事実である。実際、その主な目的は、宗教家、反体制派、そしてその者たちの権利を擁護する「繊細な」人々を監視することにある。
識者の中には、中国経済が成長の曲がり角を迎え、社会の安定を維持するための伝統的な手法のコストが増大してきている、とみる者もいる。そのため、公衆を巻き込んだ毛沢東時代の制度が再び脚光を浴びるようになってきた。
同手法でコストを削減する方向性は、赤い腕章団に関して中国の主要メディアで吹聴されている党の方針と一致する。メディアのプロパガンダには、たとえば、「人民を助けるのではなく、問題解決に努めよう。補助金を出す代わりに報奨を出すのだ」や、「警察の人員不足を効果的に補うための近道を見つけよう」などがある。楓橋経験と赤い腕章団は、安価に警察国家を確立するための優れた方法のようだ。
林一江による報告